分 類:大名狂言 準大名物
登場人物:太郎冠者(シテ)、主人
あらすじ
勝手に休みをとって出かけていた太郎冠者が家に帰ってきてるというので、
主人は太郎冠者の家に様子を見に行きます。声色を使って様子をうかがったところ、
案の定、戻っていました。しかりつけますが、富士山へ参詣していたというので、
許すことにします。主人は早速、富士山の様子を聞きますが、
太郎冠者がよい富士松(から松)を持ってかえってきたと聞いていたので、
見せてもらいます。とてもよい物だったので、色んな宝物と取り替えたいといいますが、
太郎冠者は渋ります。
しかたなく帰ろうとする主人を、太郎冠者は富士の神酒があると言ってひき留めます。
酒を飲みながら、連歌の付け合いになります。そして、日吉神社の祭礼があるので、
それを見に行くことになり、道中、連歌の付け合いをし、うまく付けられなかったら、
罰として松をもらっていくと主人は言い出します。仕方なく太郎冠者は付けますが、
だんだん主人の悪口になるような句になってきたので、主人は腹を立てます。
みどころ
太郎冠者が無断でどこかへ行ってしまう狂言は、太郎冠者が土産話をして 失敗するのですが、この狂言ではちょっと毛色が違い、連歌の付け合いを することになります。当時の俳諧連歌集にあるような句もあり、 連歌がわかればとても楽しめる狂言なのですが、 何の知識もなく連歌を聞いても、現代人にはなかなかわかりにくいものです。
例えば、最初の句は
(主人) 手に持てる かわらけ色のふるあわせ
(太郎冠者) さけごとにある つぎめなりけり
です。これは太郎冠者が富士の神酒を主人に勧める場面です。
土でできた盃を「かわらけ」といいます。主人が手にしている盃を指しますが、
この場面の前に、「古袷(古い着物)でも持っていって酒を買って来い」
と太郎冠者が家の者にいう場面があります。そこで、この句の「かわらけ」は
「かわらけ色の古い着物」という意味も持つことになるのです。まとめると、
「かわらけ色の古い着物を持っていって買ってきた酒が、手に持った
盃に入っている」という意味になります。表立ってはいいませんが、
主人には富士の神酒ではなく、そこらへんで買ってきた酒であることが
ばれているのです。それを句に込めて、太郎冠者をいじめているのです。
これに対して、太郎冠者が付けた句は、「裂けごとにある 継ぎ目なりけり」
となります。土で出来た盃ですので、所々ひびが入っています。これが「さけ」。
ですので、それを修理してあるということで「継ぎ目」となるのですが、
「酒事にある 注ぎ目なりけり」としますと、「さけごと」が「酒を飲む事」
になり、「つぎめ」は「酒を注ぐ」ということになります。酒を飲むには
注がないといけませんよね。
このような意味を瞬時に読み取ることで連歌は楽しくなるのですが、
普段からなじんでいないとちょっと大変です。台本を読んだり、
「犬つくば集」などの当時の連歌を集めた本を読んだりして、
分かっていくと、だんだんと味が染み出てきます。
最後の「螻(けら)腹立てば 鶫(つぐみ)喜ぶ」は、 螻が主人を表し、鶫が太郎冠者を表しています。 螻とは土の中にいる虫です。鶫は鳥です。その虫が腹を立てると居場所が分かり、 鶫はえさがみつかり喜ぶ、という内容と、「主人が喜ぶと太郎冠者が喜ぶ」 という内容をかけているのですが、面白味があんまりよくわかりません。
単語帳
【富士松】(ふじまつ) から松のこと。富士山に多く見られたので、こう呼ばれる。 中世の都では盆山の材料として珍重される。そのため主人は欲しがるのである。【山王のご縁日】(さんのうのごえんにち) 比叡山の麓にある日吉神社の祭り。四月ごろにある。
文:佐渡のきつね
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