
分 類:大名狂言 大名物
登場人物:大名(シテ)、太郎冠者、蚊の精
あらすじ
大名が相撲の者を抱えようと言うので、太郎冠者は上下の街道へ出て、異様な顔をした男を連れて帰る。大名は自ら相手をして相撲を取る。取り組むやいなや、大名は刺されてふらふらとする。男が江州(今の滋賀県)守山の者というところから、相手は蚊の精であろうと気づいた大名は、太郎冠者に扇であおがせ、よろよろとする蚊の精のくちばしを抜いて打ち倒す。

みどころ
相撲取りを雇いたいという大名の命令を受け、太郎冠者が連れてきたのはなんと“蚊の精”だった・・・という何ともメルヘンチックなホラー狂言(?)です。この「大名が自ら相撲を取る」といったレパートーリーには、他にも『文相撲』『鼻取相撲』がありますが、連れてきたのが真人間でないという所に、この狂言の面白さ(恐ろしさ?)があります。能力頭巾をかぶり、面は“うそふき”(うそとは口笛のこと。よって、口笛を吹くように、口をとんがらせた面。ひょっとこ面の原型とでもいいましょうか)、水衣は羽根をはためかせる感じを演出し、すねの脚絆は、蚊の飛び回る機動性を示します。この蚊の精ルックに、実際に相撲を取る時には、面の口に、“こより”(白い紙を長細く巻いたもの)をくちばしに見立てて差し込みます。
ここでひとつ、蚊の精の登場の台詞を聞いてみましょう。
「まかり出でたる者は、江州守山(現在の滋賀県守山市)に住む、蚊の精でござる。承れば都には、相撲が流行ると申すによって、某も相撲取りとなり、人間に近づき、思うままに血を吸おうと存ずる」・・・私が、蚊の精を演じるに当たって台本を受け取った時、こんなえー加減な名乗りの台詞があって良いものかと思ってしまいましたが、どうやら、こいつの生息地は琵琶湖沿岸の湿地帯らしいですね。それが、なぜ敢えて“守山”出身かと言うと・・・昔京都から東に旅をする時(これを海道下りと言います)、京都をでて粟田口→山科→大津→瀬田大橋→篠原ときて、“雨は降らねど”守山宿あたりで一日目の行程を終えたようです。そして夏場の夜、旅人は琵琶湖名産・大量の蚊の攻撃を受ける・・・こうして守山市民には迷惑な事ながら、「守山=蚊どころ」の図式が成り立ってしまったのだと、うちのお師匠さんが仰ってました。
さて、実際の相撲は二番あり、大蔵流では一回戦は蚊の精の勝ち、二回戦は大名の勝ち(大名の反則負けとも言えます。行司役の太郎冠者に、扇で蚊の精を弱らさせているのですから)、和泉流ではどちらも蚊の精の勝ちとなっております。各家により、蚊の精の飛び方・弱り方は様々ですから、是非ともいろんなヴァージョンの蚊を観てやってください。夏の薪能シーズンなら、ばかみたいに『蚊相撲』が演じられますから、まとめて観ることができます。(少し、皮肉りました)
文:湯田拓也
公演情報